香典の準備

香典の準備

池波正太郎氏という方をご存知でしょうか。随筆「男の作法」は、日常のさまざまな場面を切り取っては気の効いた説教も交えていて楽しい一冊です。直接に葬儀のお話とは関係ないかもしれないのですが、その中からこんな香典にまつわるお話を。

「江戸時代の人というのは、封建時代、即ち古いということで十把ひとからげで言われているけど、女が別紙されていたなんていうことはないんですよ。男はみんな、ちゃんと女の人を立てていた。それはどういうことかというと、ぼくの家内の母が亡くなったでしょう。そのときにまず、『お父さん、香典いくらにしましょう』と家内が言う。そうするとぼくは、『いや、香典はいくらにしたらいいか、お前、言ってごらん』と、まず家内に言わせるわけですよ。すると家内は、『このくらいでどうでしょうか‥』と。『いや、それじゃお前に母親だから少ない、その倍にしなさい』ということで、ぼくがそう言えば、家内も自分が重んじられていると思うでしょう。こういうことは何もぼくだけじゃない。みんなそうだったんですよ、昔は。『亭主関白』というのは、そういうことなんだよ。本当の意味は。だってそうでしょう。自分一人だけ、わがまま勝手なことを言って威張り散らずというのは、亭主関白でもなんでもない。ただ自分本位なだけですよ。」

ははぁ、と女性側から見てもずいぶん参考になるお話です。普通、香典を用意しなければならないとなった場合、どうでしょうか、。だいたいの家庭では奥さんが自分で決めて用意しておくだけ、もしくは夫に聞いてみはするけれど「任せるよ」とか「お前が考えた額でいいよ」とか言われて、なんだか不服顔を浮かべながら一人で準備するだけなのではないでしょうか。

面倒なことはこっち任せ。女性は自分の中で答えが決まっていたとしても、一緒に考えて貰いたいと思っている生き物です。香典に関してだけの話ではなくなってきますが、そういうものです。このお話の男性も、見方によれば責任回避の面も見受けられなくはないのですが、こんな扱いであれば女性は機嫌よく準備もするというものですし、字だっていつもよりきれいに書いてしまうかもしれないですね。おまけに夫婦間の仲も保てるというものです。

世の男性が皆さんこんな気遣いが出来たらもっと円満な家庭も増えそうに思うのは私だけでしょうか。こういうと不謹慎かもしれませんが、もしかしたら香典の準備は夫婦仲をアップさせるチャンスととれるかもしれません。また、これが自分の奥さんに対しても、相手の遺族に対しても礼儀というものかもしれませんよ。